「呪」という字

雑記

先日発売された《奇門遁甲呪術》であるが、表紙に使用する題字の揮毫を依頼され、書体を隷書に決定してから調べている時にちょっとした問題に直面した。

」が隷書に無い。説文にも無い。

仕方がないので、それっぽくでっち上げて書き上げた訳だが、これを見咎めて書いた者の見識を疑い嘲笑する者が出ると思う。別に「商業用に隷書の筆法で書きました」と言えばすむ話ではある。

どういうことかというと、現在使用されている字体が後世の俗体であることが多々あり、たとえば「村」という字を隷書で書きたければ「邨」を使用し、「悦」ならば「説」を使用する等々。

以前ならば古文字に関しては「無いものを勝手に作ってはいけない」のが原則であり、古文字を使用した作品・商品を作ろうと思えば、表記に最適の文字を選び出せるかが評価と直結するので慎重にならざるを得なかった。

一般に示されることを目的としたもの、特に商業的なものに関しては一般の目に触れた際に、単純に読めないとか理解不能となることを避けるために正確な表記をしないことも当然ある。上述の「村」でも、これをそのまま篆隷化しているのは割合見かける。市井のはんこ屋さんなら腕の見せ所で、日本国内でしか通用しない国字や常用漢字、ひらがなやカタカナを篆隷風にデザインし、横書きで円形や方形の中に見事におさめている。

近年では町中で見かける屋号のロゴや和菓子のパッケージ他、様々な分野で篆隷や古典仮名を使用したデザインが地味に増加しており、想像以上に正確なものを見かけるようになった。今は學習や表現の方法、更には読み取りの方法さえ劇的に変化している。これが示すことは、読めない(読まない)人には図形のデザイン表現と同等の扱いであろうし、読める(読む)人には内容がわかる。正確に作るのはデザイナーのこだわりだけではないと思う。

正確に表記したい場合では隷書の実例や用例がなくとも説文及び出土文物の実例があればそれを元にして書体を作ることがある。今回の場合では学術的に細かいことをする気がなかったので軽く調べる程度で止めたが「呪」は「祝」か「詶」を使用しなければならないようだ。試しにこれで表記してみると、

奇門遁甲祝術

これはまぁ誤字にしか見えない。「シュクジュツ」って何?と言われる。

奇門遁甲詶術

画数が多い割に印象が薄いのは見慣れない字だからだろう。

どのような表記をしてもクレーマーに噛みつかれるし、いちいち対応するのも嫌なので「商業出版用に字を作りました」と言うしかない。今の世の中で正確さを追求すれば「学識があることを自慢している」とか「読めない者を見下している」と言われ、あまりこだわずに書体を作れば「書体を変えろ」とか「そんな仕事受けなければいい」と言われるだろう。

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